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創作小説、エッセイ置き場です。ジャンルはごった煮です。誹謗中傷はおいやめろ。やめてください。お願いします。
Posted by - 2026.06.13,Sat
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Posted by imaginary-fruits - 2010.11.29,Mon

マルベック、ソーモン地区。
自治議会がある街の中心部で治安や利便性に力を入れているため、地価が高くこぎれいな宿屋や商業施設が軒を連ねている。
なかでも古くから存在し、老舗と呼ばれるような宿では、一泊しただけでも町民がしばらく暮らせるほどの宿泊費を請求される。
よってこの地域で宿を取る者は、各国の来賓をはじめとした、いわゆる貴族階級以上の人間たちに限られる。
並みの旅商や巡礼者、貧乏な冒険者たちは歓楽街やキールの店がある地区で治安の悪さに警戒しながら過ごすのが普通だった。
だからその二人組がフロントにやってきたとき、他の宿泊客はもとより従業員までもが好奇の眼差しを送ったのも、無理からぬことだった。

「こちらでしばらく宿をとりたいのです。空き部屋はございますか?」

やたらと丁寧な言葉遣いで訪問者のひとりがフロント係の男に訊ねた。

「どれくらいのご滞在をお考えですか?」

男は慇懃な態度を崩すことなく、宿泊名簿をめくった。

「ひと月ほど」

その言葉を聞いた瞬間、彼は失笑して女の顔を一瞥した。
顔にまだあどけなさが残る、女というよりは少女といったほうがよさそうな面持ちに、長旅用の無骨な外套で身を包んでいる。
少女の後ろには深緑のローブに身を包んだ人物が佇んでいた。
さっきからひと言も喋らないうえに、フードを目深にかぶって顔が判別できないが、背格好から男性のようだった。

「申し訳ございませんが、ただ今空き部屋はございません」

「……今の時期であれば宿屋はどこも閑散としている、と街で伺ったのですが。こちらはできたばかりのようだし、どこへ行くにも便利なので是非とも利用したいのです」

少女は疑わしげに彼の顔を見た。

「お褒めにあずかり光栄でございます。しかし申し訳ございませんが、手前どもの宿ではお客様にご紹介できるお部屋はございません」

男はいろいろな意味を込めて二人の宿泊を断ると、もう話すことはない、といった様子で自身の手元に視線を落とし、それまで着手していた作業に戻った。
にべもない様子のフロント係に少女が困惑の表情を浮かべて背後を振り向くと、フードに覆われた人物の頭部が微かに動いた。
彼女はそれを見て毅然とした態度でフロントに向き直る。

「とりあえず前金でこれだけお支払いたします」

そう言って彼女は外套のなかから、握り拳大の重そうな革袋を取り出した。
胡散臭そうに袋の中身を見た男の顔が強張る。
そこにはウィーネ諸国共通の金貨がぎっしりと詰まっていた。

「なにか?」

「い、いいえ。し、失礼いたしました。もう一度名簿を確認して参りますので、少々お待ちください」

男は大慌てで名簿を見直す『ふり』をしてから、咳払いをひとつ。

「ひ、ひとつだけご案内できるお部屋がございます」

「まあ、それはよかった」

少女は芝居がかった仕草で手を合わせる。

「滞在中に足りなくなりましたら、お手数ですがお声かけくださいね」

名簿に二人分の名前を素早く書き込みキーを受け取ると、可憐な花のような笑顔を残して少女はローブの人物と共に颯爽とフロントを後にした。

「どうもこの国の人々は金銭の有無で対応を変えるようですわ」

部屋に入ると少女は外套を脱いで手近にあった椅子の背にかけ、後から部屋に入った人物の羽織っていたマントに手をかけようとした。

「ユーリ様、どうされ……」

手で動きを制された少女が不思議そうな顔をすると、ドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

ユーリと呼ばれたローブの人物から発せられた声は男のものだった。

「失礼します」

彼の返事を受けて若い男性の使用人が部屋に入ってきた。
使用人は食事をする場所やらなにやらをひと通り説明すると、指先を擦って見せた。
ユーリは自身の懐から金貨を一枚取り出して、少女に渡すよう促す。
彼女は面白くなさそうにしながらも、ユーリから受け取った金貨を使用人に手渡した。
使用人は深々とお辞儀をして部屋を出て行った。

「いやらしい笑いかた」

少女はたっぷり間を置いてからそう言って、部屋の鍵をかけユーリのマントを脱がせた。

「大金をちらつかせると、こうなるから嫌だね」

「申し訳ありません。私の交渉が拙いばかりに」

「ルマージュのせいじゃないよ」

ユーリは苦笑してベッドに腰掛けた。
王宮のなかにあっても遜色ない、柔らかな感触だった。
これなら彼女の身体にも負担にならないだろう、とユーリは内心ほっとする。

「すぐにでも『探索』に出られるのですか?」

ルマージュと呼ばれた少女は自身の外套とユーリのマントを抱えて衣装棚にかけたり、備え付けの茶器を用意したりと動き回りながら訊ねる。

「いや、今日は結構歩いたからね。ゆっくり休んで明日動こう」

その言葉にルマージュは少し複雑な顔を見せた。

「私なら、大丈夫です。まだ夕暮れまで時間がありますし、お伴しますわ」

ユーリはしばらく彼女の顔を見つめていたが、やがて目を閉じてベッドに寝転がった。

「うわっ、ふかふかだ。君もやってご覧よ」

「ユーリ様……」

「ぼくが疲れているだけだよ。マルベックには旨い煮込み料理があるらしいから、それを食べに行こう。君が作るのとどちらが旨いだろうね?」

「もう……」

子供のように笑う彼を見てルマージュも頬を緩ませた。
そして心のなかでそっと感謝する。

「それはそうとルマージュ」

「はい?」

「本当に同じ部屋でよかったのかい?」

「な、なにを仰るんです!」

少女はからかうようなユーリの言葉に、頬を紅潮させてそっぽを向いてしまう。

「ぼくも健全な男だからね。君のためを思ってさ」

「な、な、な……」

「資金のことなら心配ない。どうせ『結社』の連中は相当貯め込んでいるだろうから」

ルマージュは目を白黒させて抗議の言葉を考えていたが、やがて俯くと寂しそうに、ぽつり、と呟いた。

「なにもしないくせに……」

「冗談だよ、って……」

彼女の呟きとユーリの声が重なった。

「うん?なにか言った?」

「なんでもありませんっ」

先ほど廊下を歩いてきた使用人の足音には気付いたくせに、聞こえていないわけがないとルマージュは苛立つ。
彼女はユーリの背後に回ると、少し乱暴に彼のフードをめくり上げる。

「痛いな」

ユーリの『突き出た耳』が勢いよく飛び出した。

「『髭』にも引っかかったじゃないか」

「知りません、もう」

やれやれ、とユーリはルマージュの後姿を眺めながら、自分の『毛むくじゃらな頬』を撫でた。

 

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